2011年11月28日月曜日

新労使協定のポイント

相変わらずなかなかまとまった時間がとれませんが、サンクス・ギビング休暇を利用して書いてみました。

11月22日火曜日に、MLB機構と選手組合との間で2011年12月から5年間有効の新たな労使協定が締結されました。この夏NFLが当初期限を延長してロックアウトの末になんとか合意したことや、NBAに至ってはシーズン開幕予定日を過ぎ、(MLBの合意を受けて)つい昨日ようやく合意に達し、約1か月遅れでシーズン開幕という状況になっていることを考えると、期限の2週間も前に合意に達したことは、それだけでも偉業と言っていいと思います。合意会見で「20年の平和」という言葉が何度も使われていました。1994年のシーズン途中にストに入ったことにより人気が急落した苦い経験を忘れてはないということです。ファンあってのプロスポーツということをよく理解しています。

さて、多岐にわたる合意内容のポイントをいくつか紹介しておきます。(現時点で公表されている公式の資料のほか、各種報道などを読みながら作ったものです。間違いなどお気づきの点がありましたら、ご指摘頂ければ幸いです。)

●プレーオフ拡大
プレーオフ進出チームを両リーグ1チームずつ増加(計10チームがプレーオフ進出)。地区優勝チーム(3チーム)を除いたリーグ勝率上位2チームがワイルドカードでのプレーオフ進出となり、まずこの2チームが1ゲームプレーオフを戦います。その勝者がリーグ最高勝率チームと戦うことを含め、ディビジョンシリーズ以降は現行と同じフォーマット。これにより、ワイルドカード進出チームは1ゲームプレーオフに(可能であれば)エースを投入せざるを得ず、地区優勝チームに比べて不利な戦いを強いられるため、地区優勝の価値が上がることが期待されます。2012年から導入するか、2013年からとするかは2012年3月1日までに決定。Bud Seligコミッショナーは2012年からの導入を示唆していました。地区優勝の価値が下がっていることは気になっていましたので、歓迎です。

●アストロズがア・リーグ西地区に移籍
2013年から、50年以上にわたりナ・リーグに所属してきたヒューストン・アストロズがア・リーグ(西地区)に移籍。これで両リーグとも15チームずつ、各地区とも5チームずつと均衡が取られることになりました。これにより、開幕から毎日どこかでインターリーグの試合が行われることになります。私はインターリーグ自体にあまり好感を持っていないので、どうもしっくりきません。2チーム増やして両リーグとも16チームずつにすればよかったのに。

●FA選手に伴うドラフト指名権補償制度
「一定のFA選手」が旧球団とは異なる球団(新球団)と契約した場合、旧球団はドラフト指名権を得ることになります。一見すると現行制度とあまり変わらないようですが、結構変わります。

まず、この「一定のFA選手」の定義が変更となります。現行のタイプA、タイプBという選手の成績に基づく格付けを廃止。対象となるのは、前年の年俸上位125選手の平均年俸を上回る1年契約を旧球団から提示されながら(提示期限はワールドシリーズ終了後5日以内)、これを拒否した(拒否期限はその後7日以内)選手のみ。この上位125選手の平均年俸というのはおおよそ12百万ドル(!)という水準になりますので、かなりのエリート選手だけが対象となります。また、シーズンを通じて所属した選手だけがドラフト指名権補償の対象となりますので、FA流出後のドラフト指名権を期待したシーズン中のトレードはなくなります。

対象となる選手と契約した新球団はドラフト指名権を1つ失います。現行制度では上位15位までの1順目指名権はプロテクトされ、2順目を失いますが、今回、プロテクト対象が「上位10位まで」に変更となりました。また、旧球団はドラフト指名権を得ますが、現行制度では新球団の指名権を譲渡してもらう形でしたので、1順目だったり2順目だったりどこと契約するかに左右されていましたが、とにかく旧球団の指名順位をそのまま引き継いでいました。新制度では、通常の1順目(下記の競争力維持のためのくじ引きによるドラフト指名権を含む)が全て終わった後に、この補償指名権を持つ球団が前年の勝率下位から順に指名していくことになりました。従来のサンドイッチピックは廃止。タイプAの選手を失った場合は2つ指名権を増やしていたわけですが、今後は1つだけになります。

なお、新制度の導入は2012年シーズン後のオフからで、今オフ・来年6月のドラフトは現行制度を基本とし、多少修正(ブルペン投手を中心とする一部の選手を補償対象から除外)したものが適用されることとなります。

●競争力維持のためのくじ引きによるドラフト指名権
というものが新設されます。まず、低収入の10球団とスモールマーケットの10球団(だいたい一致するはず)を対象に前年の勝率を加味してくじ引きを行い、6球団に通常の1順目の後の6つの指名権を与えます。さらに、収入分配制度で分配を受ける側の全球団から1順目のあとの6つの指名権に当選した球団を除く球団を対象にやはり前年勝率を加味してくじ引きを行い、2順目の後に6つの指名権を与えることになります。しかも、これらの指名権は球団間でトレード可能。なかなか斬新です。こういった制度でチーム戦力バランスを図ろうとする発想は日本にはなかなかありませんね。

●ドラフト指名選手との契約
ドラフト指名選手に対して支払うことのできる契約金に上限が設けられます。10順目指名選手(11順目以下でも10万ドルを超える場合はカウント)までに支払うことのできる上限が4.5~11.5百万ドル(各指名順位に異なるスロット額が示されるので、その球団の指名順位が上位であれば上限も上がり、下位であれば下がります)になります。これを超過した球団は超過額の75%~100%という高額の課徴金を支払うだけにとどまらず、超過額が5%以上の場合には翌年以降のドラフト指名権(超過額により、翌年1順目のみ、翌年1順目と2順目、翌2年の1順目)を喪失することになります。かなり厳しい精細なので、超過する球団は出てこないのではないかと思われますが、まずは来年のドラフトに向けて、Scott Borasを初めとするエージェントがどのような動きを見せるかが注目されます。

また、ドラフト指名選手との契約期限が、従来の8月15日頃から7月12~18日の間のいずれかの日(毎年異なる)に前倒しされます。これまでは契約が遅かった選手はマイナーを経験することのないままシーズンが終わったりしていましたので、選手の育成という観点からは望ましいことだと思います。また、従来はいきなりメジャー契約を結ぶことも可能でしたが(最近のナショナルズでも、Strasburg、Harper、Purke、Rendon)、今後はマイナー契約しか認められないこととなりました。

これまでもMLBが推奨する契約金水準が示されていましたが、必ずしも守られていませんでした。というか、これを守らず下位指名選手に高額の契約金を積むことで入団させるという作戦が成り立ってきました。ナショナルズはこれをかなり積極的に使ってきた球団の1つであり、A. J. ColeやPurkeがその代表格です。FA選手に比べれば遥かに額が小さくて済むギャンブルであり、どちらかというとスモールマーケットの球団が有効に使ってきた印象がありますのでチーム間の競争力バランスには反するのではないかと懸念します。また、フットボールやバスケットボールとベースボールの両方で才能が認められていた選手をベースボールに専念させることにも役立ってきましたが、今後はそのようなことは少なくなると思われます。アメリカのカレッジスポーツでは、フットボールとバスケットボールはかなりメジャーで高い奨学金も提示されていますが、ベースボールはややマイナー感が否めません。

●海外選手との契約
まずここで言う「海外選手」とは、主にドミニカ共和国、ベネズエラ、コロンビアといった中南米・カリブ海諸国の若い選手です。日本人選手の扱いは明記されていませんが、キューバ選手について「23歳以下でプロ経験が5年未満の選手」と限定されているようなので、日本選手も同様と思われます。つまり、日本プロ野球でいうところの「海外FA選手」やポスティング選手は対象外となり、レッドソックスと契約した田沢投手のような例は対象になると思われます。

そういった海外選手との契約は従来、契約できる時期は限定されていましたが、特に金額的な制約を課されていませんでした。今回、年間(7月から翌年6月)の契約金額の合計に上限が設けられることになりました。まず来年7月からの1年間は各球団とも2.9百万ドル。翌年以降は1.8~5百万ドル(勝率の低い球団ほど上限が高い)となります。この上限を超える場合には、75%~100%という課徴金を支払うのに加え、超過額が5%を超える場合は翌年、高額選手と契約することができなくなるというペナルティが課されます。また、2013年7月以降はこの上限を球団間でトレードすることが可能となります。さらに将来的にはこれらの選手をドラフトの対象に含めることを検討することも合意されています。

現行制度上は、大金を持つチームが有力な選手を囲い込むということも可能と言えば可能でしたが、FA選手に比べれば相対的に投資が小さく済むことから小規模球団もギャンブルに出ることができる分野でした。代表的な例は、キューバから亡命したAroldis Chapman投手と6年30百万㌦という契約を結んだレッズ。これが使えなくなるということは、ドラフト選手の場合と同様に、競争力バランスに反するという点で懸念があります。また、表面上の契約金額とは別の裏金が動くのではないかという懸念もささやかれています。

日本プロ野球を経ずに日本の23歳以下の選手を獲得することはかなり難しくなりますので、日本プロ野球には朗報なのかもしれませんね。

●年俸調停権取得
特に別の契約をしていない限り、メジャーリーガーの年俸は、昇格から数年間最低保証年俸(50万ドル弱)付近で据え置かれた後、年俸調停権を取得すると急激に上昇していきます。この年俸調停権を取得するのに必要な期間は、原則3年なのですが、2年以上3年未満でも昇格からの期間がある程度長い選手は「スーパー2」と呼ばれ、2年目終了後から年俸調停対象となります(FAとなるのは6年目終了後なので、年俸調停対象となる回数が4回となる)。

今回、このスーパー2となる対象選手が、昇格後の期間が2年以上3年未満の選手中の上位17%から22%に拡大されました。従来から、有望新人の昇格時期を大きく左右してきたこの制度。従来は、6月に入ればスーパー2扱いにならないだろうと想定できた(だからStrasburgのデビューは6月だったわけです)のですが、今回の改正では6月末あるいは7月にならないと危険といわれています。Bryce Harperの昇格時期がこの改正により遅れるかどうかという議論もありますが、そもそもこのスーパー2扱いになるかどうかが話題になるほど早く昇格する可能性があるとは思えません。フロントの発言を聞いていると、開幕はAA、シーズン半ばにAAAに昇格して、9月デビューではないかと思われます。(もちろん、個人的には一日も早く昇格して欲しいですが)

●その他
-マイナー契約でスプリングトレーニングに参加し、開幕の5日前までに解雇されなかったにもかかわらず開幕ロースターに残されなかった選手は、10万ドルの支払いを受け、6月1日に自由契約となることができる。

-ダブルヘッダーが行われる日は25人ロースターが26人に拡大できる。

-今季ホームランか否かだけで用いられていたインスタント・リプレイ(ビデオ・リプレイ)がフェアかファールかの判定、ボールがフェンスに当たってグラブに収まった(ヒット)のか直接捕球した(アウト)のかも用いられる(詳細は、今後のMLBと審判団体との協議による)。

-超過すると課徴金を払わなければならなくなる年俸総額水準は1億7800万ドルとする。

-2012年のスプリングトレーニングからヒト成長ホルモン(HGH)を対象に含む血液検査を導入。

-球場でのたばこ(かみたばこ含む)禁止。

-メープル製のバット(a low density maple bat)の使用禁止。

-2013年からより安全性の高い(時速100マイルに耐えられる)ヘルメットに変更。

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