2008年12月2日火曜日

その時歴史は動いた(2002年6月27日のトレード)

 時は2002年。

 前年まで5季連続で負け越していたモントリオール・エキスポスは、人気も30球団最低レベルまで低下。ついに開幕前の2月には買い手も現れないままにオーナーが球団を手放し、メジャーリーグ機構に所有されるという緊急事態、まさに球団存続の危機に立たされていました。老将Frank Robinsonを新監督を迎えたものの、開幕前は当然ながら苦戦が予想されていました。

 しかし、大家友和(この年13勝)、Tony Armas Jr.(12勝)、Javier Vazquez(10勝)の投手陣と主砲Vladimir Guerreroを中心とした打線がかみ合い、意外にも善戦。4月は16勝10敗の首位タイで終える好スタート。5月に失速したものの、6月に入るとまた調子を上げ14日には地区2位に浮上。さらに6連勝と、地区10連覇中の首位ブレーブスを猛追します。ただ、ブレーブスも勝ち続けたためなかなか差が縮まらないまま、6月25、26日にパイレーツに2連敗を喫し、ブレーブスとの差を7ゲームと広げられてしまいました。

 そして皆さん、いよいよ今日のその時がやってまいります…。


 2002年6月27日。1つのトレードが発表されました。

CLE→MON: Bartolo Colon, Tim Drew
MON→CLE:
Lee Stevens, Brandon Phillips, Cliff Lee, Grady Sizemore

 当時は、Bartolo ColonとLee Stevens等とのトレードと報道されたこのトレード。フラッグディールトレードの期限にはまだ早い時期ではありますが、地区優勝(プレーオフ進出)を目指すエキスポスが、FAを迎えるベテラン一塁手と若手3名を放出し、エースを獲得したトレードでした。言うまでもないですが、Bartoro Colonは、(これより後の話になりますが)05年にはエンゼルスで21勝をあげサイ・ヤング賞を獲得した通算150勝投手です。


 しかし、このトレードをして歴史を動かしたと言わしめる理由は、そう、言うまでもなく、このトレードでエキスポスが放出したStevens以外の3人です。

Brandon Phillips (2008 season for CIN)
141G 559AB 80R 21HR 78RBI .261/.312/.442 23SB

 
 1999年ドラフト2順目。トレード時は22歳。AAで245打数で.327/.368/.506の成績を残し、AAAに昇格したばかりの有望株でした。ただ、二遊間はJose VidroとOrland Cabreraにブロックされていた形だったんですよね・・・。
 
 移籍直後にインディアンズでメジャーデビューを果たしましたが、その後伸び悩み04、05年は主にAAAでプレー。06年の開幕直後に後日指名選手とのトレードという情けない形でレッズに移籍しましたが、不思議なことに、ここで突然才能が開花しました。07年には30-30も達成したように、足も長打もあります。守備も高評価で、今季は初のゴールドグラブも獲得。もはや非の打ち所のない二塁手に成長しました。
 
 MLB.comの09 Fantasy Baseballランキングの二塁手部門5位。

Grady Sizemore (2008 season for CLE)
157G 634AB 101R 33HR 90RBI .268/.374/.502 38SB
 
 2000年ドラフト3順目。トレード時は19歳。A+で256打数で.258/.349/.348。それまでのシーズンでも、それほど目立たない成績。少なくとも長打力は全く期待できない打者でした。
 
 それが、移籍後着実に力を付け、04年の秋にメジャーデビュー。05年は開幕から与えられたチャンスをがっちりつかみ、その後は不動の1番センターとして活躍。4年連続でMVP投票に顔を出し、3年連続オールスター選出、2年連続でゴールドグラブ、そして今年は30-30を記録してシルバースラッガーまで獲得してしまいました。

 MLB.comの09 Fantasy Baseballランキングの外野手部門2位!

Cliff Lee (2008 season for CLE)
31GS 223.1IP 22w 3L 170K 2.54ERA 1.11WHIP

 2000年ドラフト4順目。トレード時はAAで15試合86投球回で105奪三振、3.24ERA、0.98WHIPとかなりの好投を見せていました。

 インディアンス傘下のAAAでも好投を続け、9月にはメジャーデビュー。04年からはローテーション投手に定着。昨季は故障と不振で散々なシーズンを送りましたが、今季は周知のとおりの活躍。先発5番手枠を争う立場でスプリングトレーニングに入ったにもかかわらず、オールスター戦でも先発し、最終的に22勝3敗。見事にサイ・ヤング賞を獲得しました。未だに信じられない復活劇です(カムバック賞も受賞)。

 MLB.comの09 Fantasy Baseballランキングの先発投手部門11位。





 この3人が、今もエキスポスもといナショナルズにいれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





 2002年シーズンに話を戻します。インディアンズで既に10勝を記録していたColonは、エキスポスに合流してからも好投を続け、17試合の先発で10勝4敗、防御率3.31と期待通りの投球を見せてくれました。しかし、そんなColonの好投もむなしく、チームとしてはColon合流後の86試合を43勝43敗のちょうど勝率5割が精一杯。地区優勝したブレーブスからは19ゲーム差の2位に終わりました。

 Colonは2003年シーズン終了でFAとなる予定でした。再契約していれば、サイ・ヤング賞を獲得した05年もチームにいたはずですが、2003年1月15日、エキスポスはColonプラス1人を3人の選手とトレードします。つまりはPhillips、Sizemore、Leeとこの3人を交換したような結果になるわけですが、獲得した選手は以下のとおり。確かにドラ1を2人とあの著名選手ですから、釣り合っても不思議はなかったのですが・・・・。

MON→CHW: Bartolo Colon, Jorge Nunez
CHW→MON: Rocky Biddle, Orlando Hernandez, Jeff Liefer, and cash

Rocky Biddle (2008 out of baseball)
 1997年ドラフト1順目。当時27歳の右リリーフ投手。移籍後2シーズンで110試合に登板するが、防御率で見ると4.65、6.92と振るわず、04年シーズンを最後にMLBから姿を消しました。

Jeff Liefer (2008 AAA of CHW)
 1995年ドラフト1順目。当時28歳の控え一塁手。03年シーズン、開幕1週間だけは良く打ちましたが、6月には打率.193まで落ち込み、マイナーに落とそうとしたところをデビルレイズにウェイバークレームされて退団。その後、05年を最後にマイナーを含めてスタッツが残っていませんでしたが、今季3年ぶりに古巣のホワイトソックス傘下のAAAで40試合で打率.224という記録が残っています。

Orlando Hernandez (2008 AA of NYM)
 そうです、あのEl Duqueです。あれっ、あの頃はヤンキースにいたはずでは、と思われた方、正解です。実は事実上の三角トレードで、前年8勝をあげたヤンキースからホワイトソックスにトレードされ、同日付でエキスポス入りしました。El Duqueなら悪くない、と思われた方、不正解です。98年から07年までのキャリアの中で、この03年だけメジャーでの登板記録がありません。故障です。シングルAでわずか2試合の登板。そしてシーズン終了後FAとなり、再びヤンキースと契約。
何事もなかったように8勝を記録しました。


 無残。

 結局、Colonの一夏10勝だけのために、Phillips、Sizemore、Leeを失う結果となりました。世に様々なトレードあれど、このトレードほど大きくWin-Lossが出たトレードを私は知りません。もしタイムマシンがあって、当時のGMや球団幹部の決定を変えることが許されるなら、2002年6月26日に行って、助言してやりたいです。

【あとがき】 
 もともと、「もしもMLBにFAやトレードが認められない世界だったら?」というhausさんのブログの無責任記事(笑)に触発されて、ナショナルズでもやってみようと思って調べ始めたのですが、(もちろん事実として知ってはいましたが)改めてこのトレードにショックを受けて、こうして記事にしてみました。
 「もしも」のほうはもう少し調べてから書いてみます。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

>改めてこのトレードにショックを受けて

それは申し訳ありませんでした。どうか笑って水に流していただけることを切に願っております。

この案件とPierzynskiトレードと、どっちが衝撃的かと前から考えていましたが、Cliff Leeの超ブレイクによって旗色が悪くなってしまいましたね。しかも、El Duqueのオチは詐欺同然でしたものね。

AstrosもJason Jenningsの件がこれに迫らないかとヤキモキしている状態なんですが、かといってCOLに移った2人の投手はかなり気に入っているんですよね(TaverasはMichael Bournと大差ないと思っていますので)。

次は「もしもエライアスランキングが存在しなかったら?」というネタでも考えようと思っていますが、エライ労力が掛かりそうで(苦笑)。

estoppel さんのコメント...

>Pierzynskiトレード
ぐおっふぉ!これもすごいですねぇ。忘れてました。
でも、Bonserはいまいち伸びないし、リリアーノは故障だったりで、少なくとも今は圧勝(?)です。

>「もしもエライアスランキングが存在しなかったら?」
?コンペンセイションピックがなくなり、例えばDavid WrightはMetsに入団していなかったかも、って感じですか?構想力に感服いたします。